卓上ゲノム展・第2回 ゲノムが語る生命誌・ヨコにつながるゲノム 前編
前回は、一人の人間の受精卵から両親→祖父母→東アジア人の祖先→ホモサピエンスと祖先をさかのぼり、ついには38億年前に海の中で誕生した1つの祖先細胞にたどりつきました。今地球上に生きている生き物は一匹残らず、ネコでもミミズでもカビでも大腸菌でも、その大元をたどっていくと同じ1つの細胞に行きあたります。物事には大概始まりがあるわけで、当たり前っちゃあ当たり前なんですが、何だか気の遠くなる話でした。
第2回の今号と次の90号では、その最初の細胞がどういった過程を経て、今を生きるヒトやネコやミミズやカビや大腸菌に分かれたのかを見ていきます。キーワードは「ヨコにつながるゲノム」。遺伝というと親から子に伝わるってのが常識的な感覚で、実際僕らが普通イメージする生物は、生殖によって自分の遺伝子を次の世代、つまりタテ方向に伝えてきます。ところが細菌や単細胞生物など体の構成が単純な生物やウイルスでは、同じ時代に生きる違う種の生物のDNAをその体に取り込んでしまうことが日常的に起きているそうです。僕らが食事をするような感覚で他の生物のDNAの一部を体に取り入れて、そのまま体外に排出されたり食あたりを起こして死んじゃったりすることもあるけれど、いくつかは遺伝子に固定され、新たな働きを獲得するって感じでしょうか。生物の進化にとってこの水平伝播は思ってた以上に重要な役割を果たしているらしいということが、近年の研究で明らかになってきました。
今号の前編でお送りするのは、初期の原核細胞がこの水平伝播によって真正細菌と古細菌に分かれ、ある種の古細菌が他の古細菌を丸ごと体内に取り込んで動物細胞や植物細胞が産まれるまでの様子。おなじみのミトコンドリアや葉緑体といった細胞内小器官も、水平伝播や共生という観点から見ると、また違った見え方をしてきます。前号や次号の展示と組み合わせて扇型に並べれば、絵柄や矢印もちゃんとつながりますよ。我ながら小難しいこと書いてるな~って思いますが、今んとこ興味のない方も捨てずに年度末まで取っておいて、4つ並べて眺めてみてください。