福音館『たくさんのふしぎ 家をせおって歩く』付録

 

作者は村上慧さん。肩書きは、美術家、でいいのでしょうか。手作りの発砲スチロール製の家を背負い、各地の「家の絵」を描きながら全国を行脚・・・ご本人の言葉を借りれば「移住」する、若いアーティストの方です。夜は地元の人と交渉し、敷地を拝借してそこに「家を建てて」寝るとのこと。ちょっと難解で哲学的な現代美術を連想してしまうかもしれませんが、その「家」のたたずまい、そして村上さんの書く絵と文章には構えた感じが一切なく、こんな「家」と「人」ならうちの庭先で2,3泊してもらってもかまわないかなと思ってしまう魅力があります。きっと全国の人もそう感じたのでしょう。2014年4月に東京を出発してから、徒歩で東北、北陸、近畿を周り、フェリーで九州へ渡った後、翌年の3月にふたたび東京へ戻ってくるまで移住した土地、つまり余所んちのお庭だったり軒先だったりは実に180カ所。各地で出会った人や食事、建物や町に関する、真面目なんだかすっとぼけてんだか(良い意味で)よく分かんない旅行記は、是非本編でお楽しみください。

 

僕が作ったのは直球ストレートの紙の家。同スケールの村上さんもついてきて、もちろんかぶって飾れます。こんなのが道ばたを歩いていたら、思わずギョッとして二度見する(もしくは見なかったことにする)こと間違いなしですが、よくよく見れば何の危険性もない発砲スチロールの家の中には、見るからに無害な村上さん。そこで突きつけられる認識のギャップが、きっとアートなのです。